言語が生み出すAI社会の壁

深層学習(Deep Learning)というキラーテクノロジーを駆使して飛躍的に人工知能(AI)が性能を上げている。画像認識や音声認識などに続いて文章読解の分野でも、AIが人間の平均レベルを超えた。Googleはこの新しいAI技術を駆使した自然言語処理AIであるBERT(Bidirectional Encoder Representations from Transformers:2018/10にGoogleが発表した内容はこちら)を組み込んで、検索サービスや翻訳サービスなどで世界を独走している。

日本ではNTTのコミュニケーション科学基礎研究所が開発したAIに、2019年のセンター試験の英語筆記科目を解かせたところ、200点満点で185点、偏差値64.1を達成したと発表されている。よく知られているように、英語は論理的な言語で学習が比較的容易であり、自然言語処理AIが組み込み易い。これに対し、日本語はあいまいさや冗長度が高いことから自然言語処理AIによるチューニングに工夫が必要であるが、克服は時間の問題である。

最終的には言語の学習で人はAIに勝てないという結論になるが、それならば日本人は英語を学習する必要がないと早合点するのは時期尚早である。Googleが英語ベースで自然言語処理AIを組み込んだ圧倒的なアプリ・サービスを展開しているために、ビジネスでも教育でも英語で実行する方が効率が良く、競争力を発揮している。他方から見るならば、日本語で学習したりビジネスを行なっている限り、日本人一人が使いこなせるアプリ・サービスに日本語圏では圧倒的な壁(ハンディ)があるため、個人的な能力が少しぐらい秀でていても世界での競争に太刀打ちできないという状況が続いている。実際に、メインストリームメディアだけでなく、学術論文からYouTubeの発信まで日本語で流通している情報量は英語の情報量とは比べ物にならない。つまり世界レベルの仕事をしたければ、英語習得は必須であり、自然言語処理AIを優位に駆使できる日本語アプリ・サービスが現れるまでこの状況は変わらないだろう。

これに比べて中国語は、文法が英語と似ていること、中国が国を挙げて世界から情報・技術を吸収する必要があることなどの理由で、自然言語処理AIを優位に駆使できる中国語アプリ・サービスが開発されている。この結果が、GAFAに対してBATHと呼ばれる企業群の台頭である。これに加えて中国では、人権に優先したデータベース蓄積を深層学習に投入して、英語圏より高い質のAIアプリ・サービスを実用化しつつある。1990年以前であるが、中国人が技術情報を入手するために日本語を学習した時代があった。日本のハイテクに国際競争力があり、世界の技術情報が最も早く正確に日本語翻訳されたからであった。現在は、中国語AIアプリ・サービスの開発のおかげで英語のわからない中国人も世界の情報にバリアフリーでアクセスできる状況になっている。

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