追体験強化学習と人類の進化の関係

サイトカインストームが死を導くメカニズム

COVID-19は普通の風邪と何ら変わらない。「未知の病であるCOVID-19は、怖い感染症である」という立論は立たない。なぜなら、未知の病はCOVID-19に限らず山のように存在するからである。例えば、癌もその発症と帰結を観察すると怖い病気であり、何らかの形で遺伝子に刻まれて伝わる(12年前、その怖さを目の当たりにした)。COVID-19についても、発症の後にかなり高い確率(1~5%)で死に至ることが怖さの源である。年始にCOVID-19の発症を経験した私は、(誰も当然に同様に行動するであろうように)どうやって生き残るかを模索してあらゆる情報を収集し、対応を分析した。

遺伝子の目で振り返るCOVID-19

COVID-19を伝える病状の中に、歩いている人が突然倒れて急死する現象が確認されていたので、その原因がもっとも気がかりであった。それはサイトカインストームと呼ばれる免疫暴走が原因で、血管内でサイトカインが過剰に放出されて多くの臓器に炎症を引き起こしたり、血液凝固の異状により生じた血栓が心臓や脳の血管に詰まって死亡に至るということがわかった(冒頭画像と説明参照)。これは、体が持つ免疫の過剰な防衛反応であり、おそらく癌細胞の無秩序な増殖やアナフィラキシーショックと呼ばれる食物アレルギー反応などと共通して、正常な体に備わった反応であると私は理解している(20年近く食物アレルギーや癌と向き合ってきたので抵抗感なく腑に落ちた)。

このような過程で私が得た結論は、自身の体に備わった免疫力を正常に保ってCOVID-19のウィルスとも闘えばよいというものであった。それは、癌、糖尿病、食物アレルギーなどの慢性疾患を予防する方策と何ら変わりはない。具体的な行動は、毎日の規則正しい運動と食事と睡眠を繰り返して生き延びるだけである(宮坂昌之先生も全く同じ結論を語っている)。

COVID-19の体験は、自身の抗体免疫が外来の遺伝子と闘う(もしかしたら共生する)メカニズム解明が不老不死につながる大切な課題であることを教えてくれた。

永久に生き延びるための論理武装

今年読んだ一番面白かった本が、Shelly Kegan氏『死とは何か:イェール大学で23年連続の人気講義』であった(中身を知りたい人にお勧めの要約)。

この本は「死とは何か」を論理的に突き詰めているところが役に立つ。仏教やキリスト教のような宗教が、死を見つめることで、魂の進化を啓蒙する教えであるのに対し、Shelly Kegan氏の論説は論理的・科学的に死を見つめて、人生の意思決定に指針を与えているところに特徴がある。したがって、仏典や聖書が説く死は哲学的で実体験が難しいが(信仰のもとに修行していれば実体験が伴なうのかもしれないが)、Shelly Kegan氏が説く死は、その論理展開を活用してすぐに自ら役立てることができる。Shelly Kegan氏は「物理主義」を擁護しているが、仏教の輪廻転生やキリスト教の復活は「二元論」を支持していると私は理解している。

「物理主義」と「二元論」のどちらが妥当なのかについて、私自身は今のところ問題にしない。科学的に不老不死をどのように実現するかを考えるとき、「物理主義:私たちが有形物であり、身体が死ねば、その人も消滅する」との立場からは、機械の部品のように身体を修復し続けることができれば不老不死を達成できるという論理的帰結を導ける。「二元論:人(魂)は自分の身体の死後も存在し続ける」という立場からは、魂が宿る主(身体)を移せば、不老不死は容易に達成できる。

「物理主義」を採用するか、「二元論」を採用するかで不老不死を実現するための方法論が異なってくるところが肝になる。さらに私たちが、過去・現在・未来と自分を同一の存在と見なせるのはなぜか。この論点に対する立場「魂説」「身体説」「人格説」によって、不老不死を実現するための方法論が異ってくる。私はエンジニアとして、この方法論を突き詰めて実装することに関心がある。

二元論者は身体と魂は別のものだから、身体がどう変わったとしても(あるいは肉体が消滅したとしても)、魂さえ変わらなければ同一の存在と見なしている。工学的には魂が宿る主(身体)を移す方法を確立することが鍵となる。ところで、1年半ほど前に科学的実証の道筋をブログで記した際に、この方法での不老不死の獲得は、凡人には困難であると書いた。個人的には小学生の頃に、幽体離脱して意識だけさ迷う体験をした記憶があるが、その方法論は確立できないままになっている。

物理主義者の多くは「身体説」を採用している。身体さえ一致していれば、それは同一の存在と見なすという考えであるが、身体部分のヒトゲノム生成は既に実現されており、この立場からは不老不死は方法論としては確立済みであり、多くの臓器について医学的に臨床段階ということになる。ただし、本能、記憶、意識などを司る脳、免疫、神経を司る腸や脊髄を再生する技術の確立はまだ達成されておらず、不老不死を安定的かつ完全に完成するためには未知の科学的解明が必要になると考える。

二元論者であっても物理主義者であっても、同じ信念や欲望、記憶などの集合である「人格説」の立場からは、人を同一の存在と見なすことができるため、追体験強化学習による意識生成という方法論が確立されれば不老不死が実現できる可能性がある。これはコンピュータサイエンスを活用して不老不死を実現しようとするアプローチと整合性が高く、需要と供給を満たしながら産業的な発展を伴ない連続的に遂行できる方法論であると考えるので、個人的にはこの方法論を追求していきたい。実際にコンピュータサイエンス側からの人格生成は急速に進歩している。

人に関わる一生の情報を詰め込んでロボット(bot)を構成して、外からインターアクティブに接触できるようにする。技術的にこれを緻密にリアリティと臨場感を備えて実装すれば、(遠隔会議が広がっていくこれからは特に)接する相手からは、botの実在感は本人と変わらなくなるだろう。真似することにかけては完璧に行なえるDeep Learning技術を駆使して実装すれば、本人よりも正確に違和感なく交流を再現することができようになる。この手法は早期に具体的成果をもたらすことが予期されており、他人からは人の死に伴う喪失や悲しみを和らげる一つの解決になるだろう。

先に「魂説」の立場から困難と記したが、追体験強化学習による意識生成を行なう手法は、自ら訓練して生成した人格を別の身体にアップロードする技術にもなり得るだろう。最後に残されている未知の領域は、生成された意識を本人が自身と納得するどうかである。

追体験強化学習で生命を進化させるメカニズム

不老不死を技術的に完全に確立するためには、コンピュータが扱う情報が記憶や感情のような認識・意識を経由して人格をどのように形成するかを科学的に解明して活用する必要がある。

脳+五官+神経+腸

意識=魂(心)

免疫系

DNA

記憶+感情

AI(ニューラルネット+ML)

シンギュラリティに向かうAIの進化

ニシキヘビを見て人が戦慄を感じるのはなぜか。過去の人生でヘビに出会ったことがない人であっても恐怖を感じるのはなぜか。祖先が蛇に噛まれた記憶、あるいは噛まれた人が死んでいった悲しい記憶がDNAに刻まれ、そのDNAが子孫に受け継がれているからであろう。脳に記憶されている情報はどのようなメカニズムでDNAに刻まれるのだろうか。感情は人格を構成する重要な要素であり、それが遺伝子と相互作用している事実は無視できない。

ストレスを感じた人は免疫力が低下して病気になりやすい。ストレスはがん細胞を誘発しやすい。免疫力が落ちている人はCOVID-19で重症化しやすい。このように感情が免疫力を左右し、時には死を誘発したりする。

遺伝子工学の進歩により主要な臓器の生成が可能となっているが、たとえ脳に記憶のアップロードができたとしても、人の人格を正確に再生することや死を克服することはなかなか難しそうだ。毎日のトレーニングと知的探究による学習の実践により、試行錯誤を重ねて体系化して証明していくやり方がよいだろう。

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