スタグフレーション再来
世界の至るところでサプライチェーンの混乱が起きており、原油や天然ガスをはじめとするいくつかの商品の価格高騰を引き起こしている。
世界各国の政策が脱炭素に急激にシフトしたことで、その副作用として天然ガスや石炭など資源価格が高騰した。石炭や天然ガスの価格高騰は産出地の洪水や季節的な需給だけでは説明できず、中国や欧州連合(EU)の気候変動規制の国家戦略が大きく影響している。急激な脱炭素シフトが引き起こす物価高騰という新たな現象を、市場関係者たちはグリーンフレーション(Greenflation=緑のインフレ)と呼んでいる。
これが幅広い物価に影響を与える原油価格にも波及し、市場のインフレ期待が跳ね上がった。NY原油(WTI)の先物価格が80ドルを超えるのは、2014年11月以来およそ7年ぶりである。強力なスタグフレーション(不景気の物価高)が今後の最も可能性の高いシナリオとなっている。
英国ではガソリン不足が起き、EU圏ではLNGの不足、中国では石炭価格の上昇によって、停電が起きるなど、異常事態を引き起こしている。
中国銀行の不動産融資の総額は、銀行の資本(約25兆5000億元、中国銀行保険監督管理委員会調べ)の半分超に相当する。中国恒大集団、中国地産集団、花様年集団など連鎖する不動産関係企業の債務不履行ドミノにより、中国銀行が債務超過へ突入していくことになる。
FRBは株が10%下がれば、テーパリングの必要はないと言い、20%下がれば一転、追加緩和をやるだろう。株が下がっても、中央銀行が流動性を供給すればどうにでもなると、多くの投資家は考えていた。しかし、5%ものインフレ(スタグフレーション)が続くと、中央銀行は何もできない。インフレ期には実質賃金が減少して大衆の生活水準が落ちてしまうからだ。
世界的な低成長、長期にわたる金融緩和、一部のハイテク企業を除いて企業収益は上がっていないことなど、将来のリターンは過去10年間に比べて明らかに低くなることをさまざまな要因が示唆している。
過剰流動性相場の終わりのシグナルはスタグフレーションである。株価が暴落するのは、スタグフレーションになったときである。
スタグフレーションは年金生活者を直撃する
この30年間、日本では現金は安全だと思われていた。しかしインフレによって預けたお金の価値は目減りするため、現金はもう安全ではない。先に述べたように必然的に暴落を経験するであろう株式投資も安全ではない。不動産や金といった現物資産は50年前の時点では目減りが少なかったが、既に過剰流動性で高止まりしている今からの動きは読めない。何が安全かと聞かれても、何が安全なのかわからない。コロナ騒動がもたらした構造的インフレ(スタグフレーション)が社会に(特に年金生活者に)対して、真綿で首を絞める効果を生み出すことを肝に銘じておくべきである。
1970年代の石油ショックが、スタグフレーション現象の例であった。現在の年金生活者は、若い現役就業者であったころのトイレットペーパーの買い占めの記憶を思い出すだろう。第一次石油危機が勃発した1974年、日本の実質GDP成長率は前年の+8.0%からマイナス成長に転じた。石油危機のアナウンスで原油価格が高騰した影響から1974年の消費者物価上昇率は25%に急増した。まさに不況下の物価高騰というスタグフレーションに苦しんだ日本経済は、石油危機以前のような高成長を取り戻すのに時間を要し、1980年終盤まで待たなければならなかった。
1970年代後半以降では初めてインフレが加速し、場合によっては非常に劇的なものになるだろう。米国では(州によっては)、最低賃金が15ドルに達している。これがあっという間に時給30ドルになるのが目に見えると言われている。こうなると本当に価値が目減りしない投資先としては、(ご自身および将来世代への)教育ぐらいしか思い浮かばない。